備忘録85 ENFIRO Workshop

85.-2012.11.19 「ENFIRO Workshop(欧州 臭素系難燃剤の代替研究成果報告会)に出席」

 欧州委員会(欧州連合の政策執行機関)が進めている「特定の難燃剤の代替オプションに関する原型事例研究プロジェクト」であるENFIROの第2回ワークショップが2012年11月7~8日にベルギー、ブリュッセルで開催された。ENFIROの研究代表者であるPim Leonard博士の招待を受け、益永が環境研究総合推進費のHBCD代替に関する研究プロジェクトの中間成果を発表してきたので、この会議の報告をしたい。

 ENFIROの正式名称は、"Life Cycle Assessment of Environment-Compatible Flame Retardants: Prototypical Case Study”であるが、具体的な内容は、臭素系難燃剤を非ハロゲン難燃剤で代替できるかを研究してきたと言える。会議は、欧州委員会の巨大ビルに隣接するホテルで行われた。参加者は研究資金を出している欧州委員会からの参加者も含めて90名程度であった。

 私はENFIROを十分に把握できていなかったのだが、今回の報告を聞いて、その規模がかなり大きいものであることを再認識した。すなわち、ENFIROは多分野の研究者から構成されており、今回の会議では、十数のハロゲン化難燃剤の代替化合物に関するあらゆる角度からの評価結果が報告された。具体的には、難燃性能の試験法、難燃剤添加によるプラスチックの性質への影響、電気回路基盤や繊維に対する難燃性能、バイオプラスチックの難燃化、神経毒性、生物分解性、室内ダスト経由の曝露、プラスチックから大気への放散、水への溶出、そしてライフサイクル評価等に関する研究が、ハロゲン化難燃剤とその代替難燃剤を対象にして行われた結果の報告があった。全体を通した結論は明解で、「難燃性や製品性能を損なわないハロゲン化難燃剤の代替難燃剤は存在する」ということであった。なお、難燃剤全体を排除しようとする運動があるが、それは火災リスクを増やすだけだという考えで、会議出席者は一致しているように見えた(逆に言えば、ENFIROには難燃剤の製造や試験に係わる研究者が多数参加しているが、難燃剤自体に反対のグループは参加していないと言えるのかも知れない)。

 ENFIROでは、この成果を一般人に紹介する目的で、”Burning Questions”という映画まで製作しており、夕方のレセプションで試写会が催された。Pim博士の話では、種々の分野の専門家が集まっており、専門用語も違うため、最初は理解しあうことすら困難であったが、今では、異分野間での相互理解も進んだということである。今年でこの研究プロジェクトは終了するそうであるが、会議では、成果を活かすのはこれからだという感想も述べられていた。

 欧州以外からの発表としては、米国環境保護庁の人によるDesign for Environment (DfE)におけるデカブロモジフェニエルエーテルに関する代替評価の報告と、DfEと連携して化学物質のランキングを目的とするGreenScreen for Safer Chemicalsという活動が報告された。他は、私どもの日本からの発表のみであった。

 益永は横国大の「HBCD等の製品中残留性化学物質のライフサイクル評価と代替比較に基づく環境リスク低減手法」の研究成果について報告した。ENFIROでは、代替難燃剤に対して性能や毒性を横並びに評価するというやり方であったが、我々の研究は、臭素系難燃剤の一つであるHBCDが何によって代替されそうかについて社会動向を調べて、可能性のある代替物質や代替製品との間でライフサイクル・リスクやライフサイクル環境負荷の比較を試みたものである。中間結果としては、代替難燃剤は使用量が増えるが、暴露量は減ること、さらに、グラスウールのような代替断熱材が、発泡ポリスチレン+難燃剤より、環境リスクでもエネルギー消費でも優る可能性があることを指摘している。

 我々の研究はENFIROとアプローチが違うこともあってか、発表の後では、数名の方から発表が興味深かったと声をかけられた。他方、質疑の時間に、Dow Chemicalの方から、我々が想定した発泡ポリスチレン用の代替難燃剤以外への移行の可能性の指摘があった。実際、Dow Chemicalは、臭素系ポリマー難燃剤で性能の優れた物を開発しており、これが採用される可能性があるということである。今後の日本における代替動向に留意する必要がある。

 ハロゲン系難燃剤は優秀な難燃性能を有するが、非ハロゲン難燃剤の開発も進んでいる。難燃剤添加以外に表面加工におる難燃化方法も開発されている。必要性があれば、技術は進むものらしい。その意味で、リスク評価の結論も動的なものでしかないことを忘れてはならない。