備忘録87「米国環境保護庁の『HBCDの代替難燃剤報告書』がパブコメに」

87.-20130928 「米国環境保護庁の『HBCDの代替難燃剤報告書』がパブコメに」

 米国環境保護庁が9月24日に「Flame Retardant Alternatives for Hexabromocyclododecane (HBCD) [HBCDの代替難燃剤]」と題するドラフト報告書をパブリックコメント用に公開しました。http://www.epa.gov/dfe/pubs/projects/hbcd/about.htm

 当研究室でもHBCDの代替リスク評価研究プロジェクトを実施していたこともあり、また2012年11月にブリュッセルで開催されたENFIRO WorkshopではEPAのEmma T. LavoieさんからHBCDの代替報告書を2003年初めに公開する予定と聞いていたので、興味を持っていました。Emmaさんから公開の案内メールをもらったので、直ぐダウンロードしてみました。

 以下が概要です。HBCDの発泡ポリスチレン(XPE、EPS)用の代替物質を調査し、2つのみが候補であるとしています。

(1). butadiene styren brominated copolymer (CAS RN 1195978-93-8)

(2). tetrabromobisphenol A-bis brominated ether derivative (CAS RN 97416-84-7)

そして総括表では、HBCDとこれら2つの代替化合物について、人健康影響(11毒性項目)、水生生物影響(急性と慢性の2項目)、環境動態(残留性と生物濃縮性の2項目)について、収集したデータに基づいた比較を行っています。比較は、Very Low,  Low, Moderate, High, Very High Hazard の5段階です。HBCDは実データに基づいた判定が多くの項目で下されていますが、代替物質の方は多くがモデル推定や専門家判断に依存しています。全体として、ポリマー難燃剤である(1)は多くの項目でHBCDより低いハザードと判定されています。他方、(2)の化合物は多くの項目でHBCDと同程度との判定です。

 (1)はDow Chemicalが開発したポリマー系難燃剤で、高分子なので毒性は低いが、残留性は高い。このようなポリマー物質は高分子のため生物体内には入りにくいということで、一般には安全性が高いとされてきました。しかし、分解産物の形成や、リサイクルや廃棄段階での挙動が気になるところです。

 EPAの報告書は、このような化学物質の性質の比較のみで、難燃性能や曝露評価も含めたリスク評価は行っていません。この報告書を参考にして使う人や企業が検討して欲しいということです。

 私どもの研究プロジェクトと比較すると、選ばれた可能性の代替物質が異なっています。わたしたちは、XPSに対してはトリス(トリブロモネオペンテル)ホスフェート(TBNP or TTBNPP)、EPSに対してはテトラブロモシクロオクタン(TBCO)を候補としました。EPAの報告書ではTBCOはXPSに必要な温度安定性がないとして候補から外しています。また、TBNPの類似した構造の物質は検討対象に入っていますが、TBNPは入っていないようです。私たちも、(1)が最も将来性がありそうだと考えたのですが、一昨年の時点では日本では(1)が代替物質として使われ兆候がまだなかったので(1)は検討対象としなかったという経緯があります。そこで、急激な使用禁止よりは、様子を見ながら代替を進めることで、2度プロセスを変更するような不経済を避けるべきだと指摘しました。

 私どもの研究では、HBCDのマテリアルフローを明確にしておくことで、代替物質についてのマテリアルフローを予測可能にし、環境排出や曝露評価も含めた代替シナリオ予測も行いました。そして、可能な限り事前リスク評価にもっていく事を目指した点が大きな違いになります。また、LCA的観点も評価に加えた代替製品の検討も行いました。 EPAの報告書でも最後の章で代替断熱材をリストしてコメントを加えていますが、定量的な評価はありません。

 時々刻々と新しい技術、製品の開発が進む中にあって、代替リスク評価もまた順応的に修正される必要がある。そういった時代になりました。 (2013.9.27 益永)